☆前回のあらすじ☆ 閉じ込められました。


「・・・え、マジで俺!?ちょっと待ってよぉー!!」
「そうだよ・・・真っ先に罠に掛かっといて、言ってるの君は・・・」
「ホンット何?馬鹿じゃねえんですかアンタ?いや仲間疑うのはいけねえや。馬鹿だアンタは」
「何!?なんで統計的に俺が悪い感じになってんですか!?」

統計的も何も、完全に自業自得である。
ペンを武器にテストと戦ってきただけであるはずの学生がこういった仕事になれないのは当然だ。多少失敗もするだろう。だが、それはそれ。
こういった現場は常に多数決でことが進む。その他大勢の心を掴めなければそれまでだ。
そもそも、この面子に同情とかそういったものを求めることから間違っている。

「っていうか、え、本気?本気マジ気で出れないんか!?ちょっと、パーティ内プロフェッショナール2名!!」
「なははははは!ビクともしないんだも」
「・・・・・・無理」
「・・な・・なっ・・・・ち、ちくしょう・・・1分前の俺、滅びろ!!」
「テメエが滅びろ」

常にヒガリ痺れを切らしていたクロイツ、いつになく強気。
がっくりと肩を落とすヒガリに、完全に上からの視線と発言である。半笑いである。

黙っていると不安になるのか、ピーチクパーチクとマシンガントークを繰り返すヒガリ。ちょっとしたパニック状態だ。焦りを含んだくぐもった声が結界越しに聞こえてくる。本人は必死だが、見ているぶんにはとても間抜けだ。

その所為か、ギャラリーの反応は至って淡白。
なんせ尊い犠牲が自爆したお陰でまんまと危険一つ回避だ。胸中は綺麗な湖水のほとりでヨーホーホトラララヨホホである。うち約一名の言葉を借りれば「ざまぁーみやがれ、ハッ」だ。

「まあまあまー、元気だすっちゃ。励ましてくれてるんだも」
「・・・誰が?」
「えー?ほら、そこの怪我した女の子が・・・」
「何が!?」
「だーっ、てめ、ちょっと!静かにして下せえよ!」

やめてくんない、と喚き叫ぶのをクロイツが制する。
一応自分たちは追われる身なのだ。この状況で見つかったら強制イベント。戦闘は免れない。
結界の所為で外には出れないと分かってはいるが、外から中に入ってくることは可能かもしれない。防音してあるかどうかも望み薄だろう。

せめて内からバリケードでもできれば良かったが、それに使えそうな品はと見渡しても大量の空き箱が転がっているのみである。子供のタックルで容易く破壊される砂の城が完成するであろうことは、火を見るより明らかだ。

「・・・・何か・・・考えは無いの、クロイツ?」

策を求められたということは、つまり、奈嗄の手札ではどうしようもない状況だということ。
そうなれば、ここからは彼の仕事だ。

「・・・トラップなら、ここに来る途中の数箇所に仕掛けてありやす。足止めと敵を撒く為のものを、両方」

クロイツには奈嗄ほどの戦闘能力はない。弟子というわけでもないので呪術も使えないのだ。
武術だって、それなりに自分の身が護れる程度のもの、奈嗄の足を引っ張らない程度のものである。比較的、喧嘩や修羅場に慣れてるだけの人間だ。
武器は唯一、この頭。
これだけで生きてきた。生き残れたのだ。
常人より数段はスムーズに機能する頭脳をフル回転させ、一瞬黙り込んだ。

雑なようで、呪い屋林冴組はキッチリと役割分担されている。
面倒な相手の場合は知略をかざして翻弄したり、セキュリティーを突破したり、裏工作を施したりと、参謀を受け持つクロイツ。
確かな腕で狂いのない術を施し、計略を完成させるのが奈嗄。
この二人で、この二人だからこそ、今まで絶対的に不足している人手でやってこれたのだ。

そこにいきなりドンと、食っちゃ寝るゲームしちゃ寝る口を開けばだるい加えて働かない使えないの穀潰しが入った。
本当の被害者はその赤い髪の彼であることを知らないその心中、差して知るべしである。

「・・・この結界の中で、術は使えやすか」
「・・・・分からないな・・・二重の結界なんて、初めてだから・・・でも、さっき彼が術を使えたということは・・・・まったく見込みが無いわけでもない、か」
「上等です」

ヒガリが閉じ込められさえしなければどうとでもなったのだが、ああも分かりやすくエサを置けば、敵がこの部屋に入るのはまず間違いない。時間の問題だ。

視線は変わらず、学ランの後ろに隠れる怪しい箱に注がれている。十中八九、あれに仕掛けがある。だが唯一箱に干渉できるのはヒガリだ。素人が無闇に触ればどうなるか。

「ま、僕の賭けで本当に滅ばれちゃ目覚め悪りぃですから・・・・どうしようもありやせんね。
無駄だとは思いやすが、広いですし、念のため探してみやしょうか」
「・・・何をー?」

ヒガリの声にはもはや生気も無い。
これはこれでうざったいと、金髪の策士は形よい眉を寄せた。灰色の目がただっ広い倉庫を見渡す。

「結界の対象内だとは思いやすが・・・・非常口です。火災などを想定して、普通のビルなら通常の出入り口のほかに避難通路を確保しているはずです。それと排気口の穴・・・もしかしたら、そこから外に出られるかも知れやせん」

とにかく時間がない。
ヒガリを覗いたメンバーは、箱の山を掻き分けて、床、壁、天井、それぞれ思いつく限りを探り始めた。

「ええぇー俺置いてく気!?」
「全員死ぬわけにはいかねえんですよ」
「非道!冷酷!金髪!メガネ!」
「いや、眼鏡関係ねーでしょ」
「・・・なーんかお前見てるとメガネって言いたくなんだよなー」
「言いがかりはよしてくだせえ。大丈夫です。神剣が見つからなければ最悪、人質として生け捕りにしてくれるはずですから。
というか、そこから出られねえでしょう、アンタ。指一本触れられなければ殺されねえでしょうが」

飢え死にはしても、と続けられた余計な一言で、赤い少年の頭の位置が一層低くなった。わざとだ。

「・・・・まあ物理攻撃は、大丈夫だろうけど・・・・呪いも結界を通過して当たるかもしれないから・・・気をつけて、ね」
「うわー俺以外の人類みんなハゲろ」

ヒガリの相手もしてられなくなったのか、クロイツたちも遠ざかり、他を探し始めたの。結果、碗を伏せたような形の結界の中、一人取り残される。
まさかとは思うが、本当に一人取り残されるなんてことは・・・・・・・・・・・ありえる。

飢え死になんてしたくない死に方ベスト5には入るぞと嘆きながら視線を漂わせると、すぐ近くに黒毛が混じる銀色の尻尾が見えた。

「クガちゃーん、何かあった?」
「なははは〜。いや、なんも〜」
「あ、そー・・・」

そのとき、元祖呪い屋二人の注意はそこにはなかった。

「・・・・なあ、ヒガリ。そこから出たいんか?」
「・・・あったりまえだろーが」
「そか。じゃあ、出りゃーいい。じっつは・・・方法が、無いわけでもないんだっちゃ」
「え、マジ!?」
「んー、まじぃー」

そこでなはは、といつもの陽気な笑い。すっと人差し指が一つを指す。

「後ろのその箱・・・最初言ったように、おめーがそれの封印を解けばいいっちゃ」
「え、これ?でもやり方とか・・・」
「へーきへーき、俺ちゃんが教えてやるんだも。大丈夫、簡単だっちゃ」


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