「奈嗄さんちょっと、これ!」

クロイツが指す先には、スチール製のいかにも業務用の扉があった。まだ子供に近い彼よりは、自分の方が力もある。奈嗄は傍に駆け寄った。

「開かない、の?」
「ピッキングしてみやしたが、鍵自体はかかってねえようです」
「そう・・・ちょっと、下がってて」
「はい」

手前に引くと開く、ドアノブが鍵になっているタイプだ。ドアノブは回るが、手前に引くと僅かに動くだけで、何かが引っかかっているかのように動かない。引っ張られた一瞬、ぐにっと伸びた結界の境界が覗いた。
ふむ、と唇に曲げた指先を触れさせる。充分に食べたが、まだやや空腹だ。

「・・・・やっぱり、あの剣をどうにかするしか・・・ないよね・・・」
「そうですか・・・」
「・・・・・・引き受けるんじゃ、なかったかな・・・・」
「どうしたんですか、奈嗄さん。らしくない」
「何か・・・ひっかかるんだよ・・・」

そうだ、何かがおかしい。何かが。





「いいの?ホントにいいの!?」
「いーっていーって。はやく切っちゃうんだも」
「えー・・・・・・・・んじゃあ、遠慮なく・・・・うらあ、死ねえっ!だらァ!」
「わあい、殺意こもってるーう」

箱を封じる鎖。まずはそれを結ぶ繋ぎ目のような場所を外す。ぱきゃんと子気味いい音を立ててあっさり取れた。 
伝説の聖剣をとる勇者とはこんな気持ちなのだろうか。
いや、どちらかというと爆弾処理をやらされているのに近い気がする。

「で、次はどうするの?」
「この剣は影繰枷剣(かげくるかせのつるぎ)というっちゃ」
「かげくる、か・・・え、なに?」
「影を繰る、枷の剣。でもこれはいわば、商品名みたいなもんなんだも。封印を解くには、真名をつけないといけないっちゃ。そしてその名を剣が受け入れなければならない。真の名を与えることで、剣の存在を認め、かつ拘束することが―」 
「はあ・・・なんか俺にはよくわかんねーけど、この箱、開けて・・・いいんだよな?大丈夫だよな?」
「勿論だも」
「んじゃ・・・開けるぞ」

意を決し、蓋に手をかけた。よく見ると蝶番が付いている。
変に刺激しないように、丁寧に箱を開けた。

キシキシと引っかかるようにぎこちなく蝶番が動く音から、長いこと使われなかったのが分かる。不気味なそれは、まるで地獄の扉を開く音だった。

じわり、と背筋と指に汗が滲む。
蛍光灯に照らされたその全貌が見えたとき、息を呑んだ。

「これ・・・・!」












剣じゃねーじゃん!!

武器じゃねーじゃん。

「なに、また!?またなのか!?また間違えたのかって聞いてんだよオーイ!」
「なははははは、いっけね!」
「いっけねじゃねーよ!俺の緊張返せ!」
「っかし〜な、今度は合ってるはずなんだも。ヒガリ、試しに剣に名「そこまでだ!!」

第三者の声に、部屋の中全員の視線がその方へと振り向いた。

最悪のタイミング、なのだろうか。さっきの追って二人を台頭に、強面の野郎が次から次へとこの部屋に―結界の中に入ってきた。
ズラリと並んだ姿は壮観。ヤンキードラマでよくある光景だ。もれなく手には凶器。見なかったことにしたい。

「ハッハァ!よおー、やぁっと見つけた・・・って何コレ箱!?」
「とにかく封印を解くには剣に名前をつければいいはずだっちゃ」
「名前って言われても・・・・いや、っていうか剣じゃねーじゃん」
「な、なんだこりゃあ!?こん中から探せってのか!?」
「ちょっ うるさい!きこえない!あのー、ちょっ 取りこんでるんでー!」
「あっスンマセ・・・じゃねぇー!!」

さっき撒いてきた方の子分の方が鮮やかなノリツッコミを披露。謝り慣れていると見た。

「無視してくれるたァ、随分余裕じゃねーか!あぁ?」
「いきがってられるのも今のうちだ、こっちは数揃えてきたんだからな!」
「なんだぁ?ガキばっかじゃねーか、おい」
「油断すんな!変な術使いやがるんだよ、あいつら!」
「心配ない、俺が防いでやるさ」

腕の程は分からないが、呪術師もいるようだ。
出口を固めるように、人垣が並ぶ。もしかしたら、これが送られた人間全員だろうか。総勢20人強ほどとみえた。
もうここから出れないことも知らないで。そんなことをしても、今は何の意味もない。
じりじりと積まれた箱の死角に隠れつつ、奈嗄とクロイツもヒガリたちの傍による。

「・・・おい、おい奈嗄!お前魔法みたいなの使えんじゃねーの?
なんでもいいっ!どうでもいいから、何とかしてくれ!出来るんだろ!?」
「俺・・・・食後しばらくは、そういうの使えないんだ」
何しに来た!!

もうダメだ、と頭を抱えたヒガリ。このままでは、いい的だ。

「クロイツ・・・どうすれば、いい?」
「どーもこーも、こうなったら何とか乗り切るしか・・・・」
「結界を解けば良い」

言い放ったのは拘神だった。

「ともかく剣の封印を解いて結界を何とかせんと、コイツらと死ぬまでルームメイトだっちゃ」
「だから剣じゃねーっつってんだろいい加減しつこいんだよ殴るぞ」

選択の余地は、なかった。

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