なんだろう、この感じは。
この領域においてまったくの部外者であるヒガリとクロイツの二人は、身構えざるを得なかった。
先を案内するのはパッと見た感じ、優しそうな女性だ。使用人か何かだろう。
家も奇麗で、とても雰囲気が良い。しかし油断ならなかった。

「そういえば、自己紹介が遅れたであります。自分はスピナ・モアバリタというであります!
あ、お近づきの印にこの健康補助毒を差し上げます」
「「いらない」」

また毒かよ、と二人はうなだれた。
補助毒って、毒で何を補助できんだよ。毒死?

―この毒小僧の師匠が住む家だ。何より奈嗄の実家なのだから、普通の家であるはずがない。
やっぱり無理にでもサボるんだった。後悔先立たずと知りながらも、二人は悔いた。

初っ端から毒薬の塊を送られるような鬼の島だ。宝物どころか、ちゃんと五体を持ち帰られるかどうかも怪しい。怪しすぎる。家自体、怪しすぎる。

こりゃ奈嗄も来たくないはずだ。この環境で無事やってきた奈嗄も奈嗄だけれども。というか、確実に奴もそっち側に属すのだろうけど。

靴は履いたままでいいらしく、どこかを目指してぞろぞろと廊下を進んでいると、いかにも何かを思い出したように例の毒少年スピナが「あ、」と声を上げた。

「忘れてたであります!ご友人殿、シャッターが落ちてきます」
「は?」

声をかけられたことで若干歩くペースを乱されつつ、歩を進めながら辺りを見渡してもシャッターと思われるものは何もない。

しかし何かが風を切り、金属が擦れる音を頭上と足元から聞き取った瞬間、ヒガリは驚くべき速さで後ずさった。
一歩、二歩。
刹那、もの凄い金属音が廊下中に響いた。

「あっ・・ぶ、ねー!」

ギリギリというか、ほぼ同時というか、ついさっきヒガリがいた場所・・・というかヒガリが居た場所を境目にして、廊下を綺麗に分割する巨大な壁が現れていた。
銀色のシャッタ・・・シャッター?

「ちょっとコレ、刃物じゃねーですか!?」
「マジ!?」

マジだった。
よく見れば、シャッターと思っていたそれは、天上と床から伸びる刃だった。ハサミのようにかみ合っている部分は、何度も使われていたのか、刃先に傷が入っている。
これはもはや、シャッターというか―

「・・・・ギロチン?」

ここで、嫌な沈黙。

ぎろちん・・・・・なんて、非日常的な単語。
いや、待て。地面から針山が生える庭を持つ家だ、例えギロチンシャッターがあっても、今更驚くことでもないだろう。
二人は乾いた笑いを貼り付けて頷きあった。うん、驚くよね。

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