カチリ、と何かスイッチを押したような音の後、ガラガラとゆっくりシャッターが引っ込んだ。行き止まりをつくっていた壁がなくなり、再び廊下が繋がる。 そこには先ほどと同じく、この家の住人二人が立っていた。 「あらあら、まあ〜」 ラルトリュージュは口元に手をそえ、優雅に小首をかしげた。さらりと藍色の髪が揺れる。 「嫌ですわ、わたくしったら〜。申し訳ありません。住人以外には反応してしまうのを失念してましたわ」 「え、あの・・・ちょ、何?今の?」 「防犯シャッターですわ〜」 防 犯 ? 「もう、ご友人殿ー。シャッター降りてくるって言ったじゃないですかあ」 「え、いやいやいやいや」 「ともかく、お怪我がなくて何よりですわ。でもやっぱり、この防犯シャッターは改良の余地があるかもしれませんわね〜」 「えっ・・・アンタが作ったんですか!?あの―あれを」 あの処刑道具を、という文章を飲み込んで、慌てて代わりの言葉を乗せておいた。 はい〜、と緊張感のないほわほわした返事が返る。 「この家を護るのはわたくしの役目ですから。少しでもマスターのお役に立てるようにと、日々防犯機器を開発させていただいておりますの〜」 「・・・ぼうはん、きき・・・」 「あの、ひょっとして、庭のあの針山って・・・・」 「ええ。わたくしが開発して設置させていただきましたの〜。実際にお試しいただけました?」 「「いやいやいやいやいや」」 「ああー自分が解除してしまったでありますー。ごめんなさいであります」 「あらあ、残念〜。感想をお聞かせ願いたかったのですけれど」 まずい、この人。 毒 の 人 と 同 じ に お い が す る 。 独特の雰囲気に普段のペースが出せない。 まともな人だと、信じていたのに。この家に属する人間は皆こうなのか。ここは魔の領域か。 「この先はなんも罠無いよな?な!?」としつこく確認し、身の安全を保障したが、あの殺人トラップを『防犯』と言い切る辺り信用は出来ない。 ということで、 「おい、お前先、さーきー行けって。な?」 「ざっけんなよアンタ行けや」 と二人は互いを犠牲にする勢いで押し合い、まるでお化け屋敷でも入るかのように進む。ある意味、お化け屋敷より恐ろしい。 「(ボソボソ)だーから俺ヤダっつったんだよーココ来るのー!なんなんだよもーっチクショーが!」 「(コソコソ)なーに人の所為にしてやがんですか!そりゃーアンタの自己責任でしょうが!」 「(ぽしょぽしょ)どーでもいーんだよ今は!んなこと!大体、奈嗄の実家だぞ!?奈嗄の両親だぞ!?弟子とメイドさんだけでこれだぞ!?俺明らかに接触のたびに死線くぐり抜けてんのに、これから最終戦だぞ!ラスボスだぞ!俺、生きて帰れんのコレ!?どーなんの俺!?どーすんの俺!?どーする!?」 「(ひそひそ)んなの僕が知るはずねーでしょ!?」 「お待たせしました、こちらが師匠のお部屋であります!」 「「あ」」 着いちゃった。 |