ラルトリュージュのノックに返ってきた声は案外若い。高くも無く、低くも無く、中性的な通った声だった。
失礼します、と慣れた様子で、しかし丁寧に彼女はドアを開いた。

「ああ、いらっしゃい」

部屋の主は腰掛けていた立派な椅子からゆっくりと立ち上がった。
柔和に微笑むその人物は、思わず瞠目するほどの麗人だった。

随分と若い。羽織っているのが白衣ということは、医者か研究者か。
年の頃は20代・・・多く見積もって20代後半に届くか、くらいだ。眼鏡を取ったら、もっと若く見えるかもしれない。

まさか、この歳で奈嗄の親ということはないだろう。兄弟だろうか。
しかし、肉親というには随分人種が離れているように感じた。
白くて、褐色とは程遠い肌。髪の色はそう見かけないもので、逆に黒髪の奈嗄のほうが目立たない。

「汚いところですまないね。どうぞ」

そこまでクロイツが推理したとき、その人物の向かいにある席を勧められた。

ここでようやく気付いたが、ここは客間ではなく、この人の個人的な部屋のようだ。
本棚が部屋の壁を埋め尽くし、そこには本と書類か何かの束が所狭しと詰め込まれていた。入りきらなかったのか、床や机の上に雑に置かれているものもあった。さすがに勧められた椅子の前のテーブルは片付けられていたのだが。

「突然呼び出したりして悪かったね。
初めまして、私は守唖(カミア)。奈嗄がお世話になってます」
「あ、いいえ本当に―じゃなくて、こちらこそお世話になってやす」
「・・・まあ、俺もぼちぼち。えーと、俺は―」
「尚実ヒガリくんとクロイツ・スレイズスくん、で、合ってるかな?君たちのことは奈嗄からよく聞いているよ。ねえ、ラルト」
「ええ、そうですわねマスター」

人数分の紅茶と茶菓子を運んできたラルトリュージュが微笑んだ。

「なんだか嬉しいものだね。息子に友人が出来るなんて―いや、仕事仲間、かな?」
「あら。きっと今にそうなると、以前よりラルトは信じておりましたわ。奈嗄ちゃんは良い子ですもの〜」

・・・・ながれ、ちゃん。
なんだか、聞いちゃいけないものを聞いたような気が。

「あの、息子って・・・?」
「ああ、そうか。そうだね、親子には見えないよね。
奈嗄は私の養子なんだ。ラルトは・・・まあ育ての母、というところかな」
「え、でも歳が随分・・・」
「うん、何かな?」

なんだか暗に問うなと言っているようで、クロイツは視線を泳がせ、なんでもないと首を振った。

top